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東京地方裁判所 昭和27年(ヨ)4079号 判決 1952年9月10日

東京都目黑區中目黑四丁目千二百九十二番地

債權者

植木大輔(選定当事者)

右代理人辯護士

橋本公亘

同都千代田區丸の内二丁目五番地の一

債務者

株式会社千代田銀行

右代表者代表取締役

千金良宗三郞

右代理人辯護士

毛受信雄

右当事者間の昭和二十七年(ヨ)第四〇七九号新株発行差止仮処分申請事件について当裁判所は次の通り判決する。

主文

本件仮処分申請は却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

事実

債権者代理人は、「債務者は、債務者の銀座支店において、株式会社ユタカ商会の昭和二十七年七月二十八日取締役会における新株発行決議に基き現に保管中の額面普通株式五千株の株式申込証拠金の払込充当はこれに応じてはならない。」との裁判を求める旨申し立て、その理由として、

「一、債權者並びに本件において債権者を選定した佐野カメ、大谷義忠、関口一郞、鈴木国光、矢島愼哉及び田中義人は株式会社ユタカ商会の株主である。

右会社は、昭和二十七年七月二十八日取締役会において額面普通株式五千株を発行し、そのうち三千株は全株主に対し所有株式一株につき新株式一株の割合で割り当て、その餘の二千株は、申請外菊池久吉に千五百株、同鈴木愛蔵に五百株割り当て、株式申込は株金相当額を証拠金として払込むものとし、その期間を昭和二十七年八月二十日から同年九月八日まで、右証拠金を株金の払込に振替充当して為す払込の期日を同年九月十三日、申込取扱銀行を債務者銀行銀座支店とする旨決議し、申請外会社は、この決議の趣旨により債務者銀行と同年七月二十八日以降において株金払込取扱契約をなし、現にこれに基く申込受付中である。

二 右取締役会の決議にもとずく新株の発行は、第一に定款に違反し、第二に著しく不公正であつて而も株主たる債権者等に不利益を招来する虞がある。

(一)  定款違反について

申請外会社の定款第六条によれば、「当会社の株主は、新株引受権を有す。但し、新株発行に当りその都度取締役会の決議を以てその一部につき役員及びこれらの職にあつた功労者に新株引受権を与うることを得。」と規定されている。ここに新株の一部とは、株主間の持株の比率に重大な影響を及ぼさない程度の数量を意味し右但書の規定は、失権株、端株等を生じた場合における簡易な処理方法を認めた注意規定にすぎない。発行総株数の四割に相当する二千株を特定の者に割り当てることは、株主間の持株比率に重大な影響を及ぼすこと明かであり、かかる割り当は、定款第六条の規定の趣旨に反する。

(二)  発行方法の著しい不公正について

債権者及び前記佐野カメ外五名は、昭和二十七年四月株主となつたものであるが、昭和二十七年六月二十八日及び七月十九日の株主総会において決算書類の承認議案について債権者側から取締役の報酬が定款に定められた額を超えて支出されていること、無配当の会社の株式を保有し、その額面額申請外会社の資本金額を超えること及び定款所定の営業をせずして貸室を営業としていることにつき説明を求めたところ、帳簿書類の呈示も、具体的説明もすることなく直ちに採決に入り債権者側全員の不承認に対し、役員を除くその余の全株主の承認となつたが、結局役員株主の議事除斥により右議案は否決された。これにより債権者側と会社役員側とは相対立するに至つたので会社役員等は、同調者にその持株を移転し、同年七月二十二日名義書換をなし、且つ、取締役会において本件新株発行決議をするにいたつた。

債権者側は、現に合計千二百五十株を保有し、総株数に対する割合は四一・六六%である。新株発行の結果は債権者側の持株は総株数に対し三一・二五%にその比率を低下する。右一連の事実から判断すれば、会社は総会における多数を獲得し、前記不当な決算書承認案の通過を容易ならしめる為、その同調者たる菊地久吉及び鈴木愛蔵を前役員にして功労者たるものとして新株を取得させようとして前記の如く新株発行を決議したこと明かであつて、著しく不公正な発行方法というべきである。

(三)  株主たる債権者等のうける不利益について

前述の如き方法により新株の発行が行われるときは、株主たる債権者等に重大な損害を与へる結果となることは自ら明白である。

三、債権者は申請外株式会社ユタカ商会に対し新株発行差止請求の訴訟を起す準備中であるが本訴進行中に新株を発行されると原状を回復するに一層困難な結果を招くことになる。

仍て債権者は民事訴訟法第七百六十条に基き債務者に対し本件仮処分申請に及んだ。」

と述べ

疏明として、疏甲第一乃至第十八号証を提出し証人大谷義忠同関口一郞の各証言竝に債権者本人、申請外株式会社ユタカ商会代表者本人の各尋問の結果を援用し、疏乙第一号証の成立は認めると述べ

債務者銀行代理人は主文同旨の裁判を求める旨申立て答弁として

「債務者銀行が申請外株式会社ユタカ商会と昭和二十七年八月四日債権者主張の内容の通りの株金払込取扱契約をしたこと、債務者銀行が右契約に基く株式申証拠金を現に保管していることは認める。其の余の債権者主張事実は知らない。債務者銀行が前記契約により払込事務を取扱うのは、申請外株式会社ユタカ商会の代行機関として取扱うものであつて独立の当事者として払込事務に関与するものではない。従つて債権者としては、債務者銀行に対し本件仮処分を求める必要はないから本件仮処分申請は却下さるべきものである。」と述べ

疏明として疏乙第一号証を提出し、疏甲第一号証同第六乃至八号証同第十一乃至第十四号証の成立を認め、爾余の疏甲各号証の成立は不知と述べた。

理由

銀行が会社との間の株金払込取扱契約によりなす株式申込及び株金払込の取扱は、その結果当然になす申込金又は払込金保管の関係は暫くこれをおき、会社に従属して会社の為に補助機関としてするものであつて、会社から独立した資格でするものではないから、銀行は、この取扱につき会社以外の第三者に対し法律上権利義務の関係に立つものではない。したがつて、この関係について、会社以外の第三者がなす訴訟においては会社を相手方とすべきであつて、その裁判の効力は、当然銀行に及ぶものと解されるから、銀行を相手方として訴を提起し、又は保全処分を申請することはゆるされない。

本件において、債権者は、申請外会社と債務者銀行との間の株金払込取扱契約により債務者銀行が申請外会社の為になす株式申込及び株金払込の取扱について(その結果なす申込金又は払込金の保管についてゞはない。)取扱銀行たる債務者銀行に対し保全処分を求めているのであるから、債務者銀行は相手方たるの適格を欠くものというべく、本件仮処分の申請は理由がないことゝなる。

よつて、本件仮処分申請を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条の規定を適用して主文の通り判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 小川善吉

裁判官 岡田辰雄

裁判官 矢口洪一

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